情報共有を通してモチベーションを高め、職種の垣根を超えた在宅医療を実現
地域の在宅医療に携わる多職種間の連携支援ツールとして、京都府医師会が提供している「京あんしんネット」。その活用方法やメリットなどについて、京都市西京区で24時間・365日の在宅医療に取り組む「医療法人双樹会 よしき往診クリニック」院長の守上佳樹先生と、同クリニックで事務長・地域医療連携室長およびメディカルコーディネータ―を兼任される山田寿美さんのお二人に伺いました。
- ──「京あんしんネット」を導入された理由・経緯を教えてください。
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守上佳樹先生(以下、敬称略) 当院が取り組んでいる24時間・365日の在宅医療は自分たちだけで完結できるものではなく、多職種によるチームで臨む必要があります。患者さまの命とそのご家族の暮らしを守るためには、患者さまがお住まいの地域の力、つまりほかの医療機関や訪問看護ステーション、リハビリテーション、デイサービスといった医療・介護に関わる多職種との連携が欠かせないのです。そして、職種間の垣根を超えてそれぞれの力を結集させるには日々の連絡事項はもとより、診療に向けての各人の意志や意見をクロスさせる「場」が必要であり、それにはICTを利用するのが最善と考え、2017年4月の開業前に「京あんしんネット」を導入しました。ちなみに現在のようにスマートフォンやパソコンが普及する前は電話やファクスを利用し、または患者さまのご自宅に連携ノートを置き、そこに各人が気付いたことや思ったことを書き込むことでチーム内の情報共有に努めていました。
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山田寿美さん(以下、敬称略) 開業準備の段階から院内・外スタッフの連携ツールとして、スマートフォンアプリのLINE(ライン)のように携帯電話で簡単に使えるものを探していました。在宅医療には訪問看護サービスや介護サービスなど外部の事業所との連携が不可欠で、一つの多職種連携チームを構成する十数人のスタッフとそれぞれ電話やファクスでやりとりするのは大変です。それが「京あんしんネット」の場合、患者グループ(患者さまごとのタイムライン)に「○月○日の○時に○○先生の診療があります」と書き込むだけで多数の院内・外スタッフと情報共有が行えます。写真やファイルのアップも可能なので、診療に関する専門的な事柄や、お互いに言葉では伝えきれないことも比較的容易に伝達することができます。もちろんセキュリティもしっかりしているため、患者さまやそのご家族の個人情報が漏洩する心配もありません。これらのメリットを考慮して、2017年4月の開業前に「京あんしんネット」を導入し、それからすぐに当院にとってなくてはならないツールとなりました。
- ──どのように活用されていますか?
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守上 連絡事項や各人の診療に向けての考えなど、さまざまな情報の共有に有意義に利用できていると思います。私自身は、患者さまの病状以外の情報も気軽に共有できることに大きな意味を感じています。例えば、理学療法士の方が患者さまを車椅子で外にお連れしたときの写真をアップされたことがありました。そこには私が見たことのないような笑顔が写っていて、それは、患者さまがこの人と出会えて良かったという喜びを示された最大の瞬間だったと思うのです。一般に、理学療法士の方が病状以外について逐一、医師や看護師に知らせることはないでしょう。私も理学療法士の方が普段、どのようなことをされているのか正直なところ、よく分かっていません。でも「京あんしんネット」を使えば、患者さまに関するさまざまな情報を気軽にアップすることができます。そして、それがチーム内で一気に共有され、私を含めてみんなの気持ちがプラスになるという意味で、「京あんしんネット」は各人の相互理解の促進やモチベーションの向上に大きな役割を果たしていると考えています。
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山田 基本的に患者さまお一人につき、当院以外に「京あんしんネット」を利用されている事業所が1カ所でもあれば患者グループを作成し、現在は150〜160名の患者グループのタイムラインが日々更新されています。各患者グループでは、医師の診療をサポートするメディカルコーディネーターがスケジュールなどを伝え、診療後にはその内容を記入。患者さまの日々の暮らしを支える事業所の医療系スタッフや介護系スタッフは訪問時の様子を報告する、といった感じです。また、訪問薬剤師の方に残薬の確認をお願いするときなどにも患者グループを利用しています。新しい書き込みは8名のメディカルコーディネーターが毎日決まった時間に確認していますが、基本的に院内スタッフは自分が関わっている患者グループには目を通すよう心掛けています。その際には院外スタッフの書き込みを優先して見ることになっているのですが、院内・外の判断がしやすいように院内スタッフは書き出しに「YOC(よしき往診クリニック)」と書くなど、重要な情報を見逃さないようにいろいろ工夫をしています。
- ──導入して良かったことは何ですか?
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守上 まずは情報共有がいつでもどこでもできることです。極端にいえば自宅のベッドの中にいても情報にアクセスでき、連携ノートを活用していた時代を思うとまさに隔世の感があります。次にチーム内の全員で情報を共有することで、医師が独占していた医療に対する権限が分散されたことが挙げられます。以前は患者さまに関する情報のほとんどを医師が保有し、何か問題が起きたときには医師の判断を仰がないと対処のしようがない、というケースが多々ありました。しかし、現在はほとんどの情報の共有が可能となり、それによってよほどのことでなければ医師以外の各人による問題解決が可能となったのです。このように医師とほかのメンバーの立場がフラットになったのは、チームによる在宅医療を進めていく上でとても良いことだと考えています。
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山田 やはり院内・外のスタッフ間の情報共有が飛躍的にスムーズになったことです。また、書き込みの内容と時間が記録されるため「言った、言わない」といった無用のトラブルがなくなりました。事務的な面では電話連絡やファクス送付の負担が大きく軽減されたことが一番です。診療面のメリットについては写真のアップが可能なため、例えば褥瘡などは訪問看護師の方に写真をアップしていただくことで経過観察がしやすくなり、皮膚科医によるコンサルタントも容易に受けられるようになりました。あと「京あんしんネット」には患者さまのご家族の方も参加でき、口頭ではうまく伝えられないこと、患者さまご本人の前では言いにくいこと、医師の耳に入れておきたいことなどを自由に書き込んでいただけます。その思いを院内・外のスタッフ全員で共有した上で、次の診療に臨めるようになったのも導入による大きなメリットだと思います。
- ──今後の抱負について聞かせてください。
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守上 先日、京都府や京都府医師会が中心となって日本で初めて新型コロナウイルス対策に向けた多職種連携チームが立ち上げられ、当院がそのパイオニアとしての役割を担っています。今後は新型コロナウイルス感染症患者の方の在宅医療にも「京あんしんネット」を活用する予定です。また、当院では以前から災害時における危機管理にも同ツールを利用していて、2018年6月に発生した大阪府北部地震の際にもいち早く、その周辺にある連携先の病院に「要請があれば24時間体制でいつでも協力する」旨のメッセージを発信しました。このように、状況に応じてさまざまな使い方ができるのは「京あんしんネット」ならではなので、これからもその特長を存分に活かしていきたいと思います。
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山田 今抱えている課題の一つが、医療機関との連携をいかに進めていくかということです。介護関係の事業所とのチーム化はかなり進んでいますが、病院との連携はまだ不十分な部分があるので、今後は地域の医療機関に「京あんしんネット」の利用を促す働き掛けを行っていくつもりです。地域連携室で同ツールを活用してもらえれば、退院された患者さまの在宅医療への移行がよりスムーズになると思うので、これからはより多くの医療機関との連携を目指していきたいと考えています。
- ──導入を検討されている方にアドバイスをお願いします。
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守上 当院と同じく、多職種連携チームによる地域医療に取り組んでいる方にとってはもはや必須ツールなので、ぜひ導入を検討していただきたいと思います。これは余談ですが、当院が「京あんしんネット」を導入した2017年には同ツールを導入しているところがそんなに多くなく、こちらが学会発表などでその良さを積極的にPRしていたものです。その甲斐あってか、ここ数年の間に「京あんしんネット」の導入が急速に増え、当院にも同ツールを通じた連携のお話を多数いただいています。これは、それが良いモノと分かれば積極的に取り入れる京都人ならではのエピソードであり、今後も良いモノである「京あんしんネット」の輪が広がっていくことを期待しています。
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山田 在宅医療は医療系と介護系のさまざまな職種によって成り立つものです。在宅医療をより良いものとするためには各職種間の垣根をなくすことが何よりも大事だと考えています。私は医療事務職で、以前は医師や看護師と直接話をすることに難しさを感じていた部分がありました。ところが「京あんしんネット」を使うようになってからはそういった壁もなくなり、伝えなくてはならないことはしっかり伝えられるようになったのです。もし、各職種間のコミュニケーションに課題や悩みをお持ちであれば、ぜひ一度お試しください。無料で簡単に使え、セキュリティ面でも心配することはないと思うので、ぜひ私たちと連携しましょう。
クリニックデータ
医療法人双樹会 よしき往診クリニック
〒615-8262 京都市西京区山田四ノ坪町12-2
TEL.075-381-2220
FAX.075-320-2081
- 医療機関の種類
- 強化型在宅療養支援診療所(連携型)、在宅緩和ケア充実診療所
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- 診療科
- 内科・呼吸器内科・循環器内科・小児科・外科・整形外科・救急科・老年内科・総合診療科
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- 診療エリア
- 京都市西京区
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